飲食業界から見る法曹業界の将来像

2000年代前半に司法改革が行われて以降、弁護士の数がそれまでに比べて大幅に増えるようになり、法曹業界、特に、弁護士の業界は大きく変わってきています。今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか?


自分の業界の将来像を予測するには、海外の事例を見たり、他の業界を見たりする方法がありますが、今回は、他の業界の変遷から考えてみたいと思います。


あらゆる業界で、業界内の競争が激化するにつれて、プレイヤーの特徴は細分化され、色々な業態が生まれるようになります。それでは、世の中で競争が1番激しい業界はどこでしょうか。


新規に出店したお店の70%が3年以内に閉店すると言われる飲食業界が挙げられると思います。この栄枯盛衰が激しい業界の変遷を見ていくことで、法曹業界の将来像を予測するヒントを見つけられないでしょうか。


1.飲食業界の歴史を振り返ってみましょう


第二次世界大戦終了後、間もない頃は、おそらく定食屋のような形態しかなく、一つのお店が色々な料理を出していたのではないかと想像されます(その時代には生きていなかったので正確には分からないのです)。それ以外の形態のお店も、和食店・洋食店・中華料理店のように(今と比べると)大まかなジャンルしかなかったのではないでしょうか。


そして、その後、社会が豊かになるにつれて、ジャンルも広がっていきます。


日本でファミリーレストランが生まれたのは、1970年代、「すかいらーく」が最初です。また、ファストフードの代表であるマクドナルドが日本で営業を開始したのは1971年です。ファミリーレストランやファストフードの特徴は、セントラルキッチンやマニュアルを活用して、多くのメニューを素早くかつ低価格で提供するところにあります。

「つぼ八」、「養老乃瀧」、「村さ来」という居酒屋業界御三家が産まれたのも1970年代です。


その後、居酒屋御三家は「モンテローザ」「ワタミ」「コロワイド」に変わったと言われたり(例えば、「ワタミ」業態の1号店は1992年です)していますが、居酒屋のように多くのメニューを売りにしている業態が流行る一方、最近では「いきなりステーキ」、「鳥貴族」、「串カツ田中」のように特定の料理に集中したお店も人気を博したりしています。なお、これらの業態について、ヒット店がでると、すぐに類似の店舗が出てくる点は飲食業界の過酷なところだと思います。


また、こういった資本力を活用して、FC店を増やしスケールメリットを活かした業態が増えていく一方で、個人経営の飲食店はそれぞれの特徴を深化・特化させていっているようにみえます。例えば、ミシュランで星を取るような高級料理店(料理人に唯一無二の特徴がある例といえるでしょう)もありますし、ベルギービールのお店やモンゴル料理やチリ料理といった特化したお店も出てきて、一定の固定客をつけるようになってきています。こういった特化したお店は、業態が未分化の頃にはそこまで突っ込む必要はなく、競争が激しくなり、通り一遍の趣向では満足できない人が増えてきたからこそ出てきたのではないかと思われます。


こういった特化したお店の経営において必須事項は、自店が成り立つだけの売上げをたてるお客様を惹きつけることです。この条件が満たされなければ、営業を続けていくことはできません。専門店として特化する事で狭い範囲のお客様に深く刺さることはできますが、それでも最低限その店が成り立っていくだけのボリュームのお客様を惹きつけることは必要となります。どこまで特化(狭く)していいかというと、この必要な売上が立つというところにあるわけです。


2.法曹業界は、いまどのあたりで、将来どうなっていくのでしょうか


法律事務所は、1人または数人で、いろいろな分野の業務に対応するのが伝統的なモデルです。「どういう仕事をしていますか?」と聞かれると、「色々やっていますよ。」と答える弁護士は、今も多いと思います。


1990年代ころから、企業法務に特化していくことで規模を大きくしていく渉外系の法律事務所(例えば、いわゆる4大法律事務所)が産まれてきました。渉外系の法律事務所がなぜ大きくなったのかというのは、色々な理由が考えられますが、事前に全てを役所に確認していた規制形態から、事後規制に変わってきたことが大きな一つだと思います。渉外系の法律事務所では、企業法務に特化して、専門分野について経験豊富な弁護士を多く抱えるのが典型的なモデルです。


司法制度改革で弁護士が増えてからは、アディーレやベリーベストのようなマーケティングを活用して、主に個人客を集客していく形態の事務所も出てきました。両事務所の成功を参考に、同様の戦略を取る法律事務所も増えてきました。このような新興系の法律事務所では、マーケティングを活用して特定の分野(例えば、債務整理、離婚、交通事故)の個人客を集客し、若手の弁護士を多く抱えて、事務処理をしていくのが典型的なモデルだと理解されます。


伝統的な法律事務所が、昔ながらの定食屋型だとすると、新興系の法律事務所は、ファミリーレストランやファストフードのような発明だと見ることができるのではないでしょうか。そうだとすると、法曹業界の競争状態は、未だ飲食業界における1970-1980年代ころの分化でしかないのかもしれません。今後は、近時流行ったタピオカ店やひとり焼肉のようなビジネスモデルを参考にした法律事務所も生まれてくるのかもしれません。


弁護士の飽和化が叫ばれたりするようになってきましたが、飲食業界での知恵を踏まえると、これからもクライアントのニーズを捉えて様々なビジネスモデルの法律事務所が生まれてくるのだろうと予想しています。